「有給休暇、付与だけで安心していませんか?」

~年5日取得義務の「落とし穴」と「確実な管理方法」~
法律改正から数年が経過しましたが、「うちの会社は大丈夫だろう」という慢心から、労働基準監督署の定期監督や立ち入り調査で、この「年5日取得義務違反」を指摘されるケースが依然として後を絶ちません。
特に、この数年で新たに基準日を迎えた従業員や、管理監督者(管理職)まで含めた全従業員に対して、「取得時季」と「取得日数」を正確に記録・管理できていますか?
法改正から時間が経った今こそ、「慣れ」や「自己流」の管理が「法令違反」につながっていないか、改めて確認する絶好の機会です。
この記事では、今、貴社が抱える潜在的なリスクを徹底的に洗い出し、適切な管理体制へと導きます。
🔷なぜ今、有給休暇の管理を再確認する必要があるのか?
2019年4月に施行された労働基準法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、そのうち年5日を会社が時季を指定して確実に取得させる義務が課されました。
この義務は、企業側が「使いたい」という申出を待つのではなく、「取得させる」という積極的なマネジメント責任を負うことを意味します。
改正から時間が経った今、このテーマを改めて取り上げるのは、以下の理由からです。
■ 理由1:監督指導の「チェック項目」として定着しているから
改正当初は周知期間もありましたが、現在は、労働基準監督署による定期監督において、年5日取得義務の履行状況や有給休暇管理台帳の整備状況は、最も基本的なチェック項目の一つとなっています。
特に、従業員から「有休が取れない」といった申告があった場合(申告監督)、過去数年にわたる有給管理台帳の提出を求められ、取得違反が発覚するリスクは非常に高くなります。
■ 理由2:法令違反は「罰金」という明確なペナルティがあるから
年5日の取得義務を怠った場合、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
この罰金は、対象となる労働者1人あたりに適用されます。
例えば、義務を果たせていない労働者が10人いれば、最大で300万円のリスクです。
監督署の是正勧告を無視したり、悪質だと判断されたりすれば、罰則適用は現実のものとなります。
■ 理由3:「管理監督者」や「パート」の管理が曖昧になりがちだから
有給休暇の付与要件を満たしていれば、管理監督者(管理職)や短時間労働者(パート・アルバイト)も年5日取得義務の対象です。
「管理職だから自分で管理しているはず」「パートだから忙しくないだろう」といった自己流の判断で管理から漏れてしまうと、法的な義務違反となりかねません。
特に管理監督者への対応は、労務管理上の「落とし穴」の一つです。
🔷リスクを回避する「年5日取得」の確実な管理ステップ
年5日の取得義務を果たし、リスクを回避するためには、曖昧な「口頭での確認」ではなく、明確なルールと記録が必要です。
以下の3つのステップで体制を構築しましょう。
ステップ1:就業規則等で「時季指定」のルールを明記する
会社が労働者の意見を聴取し、取得日を指定する「時季指定」は、年5日取得を確実に達成させるための企業側の権限です。
この時季指定を適法に行うためには、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法について、就業規則に必ず記載しておかなければなりません(絶対的必要記載事項)。
就業規則に記載がない状態で時季指定をしても、法的な根拠が不十分となり、別の法令違反(30万円以下の罰金)を問われるリスクがあります。
ステップ2:有給休暇管理台帳の「リアルタイム」管理を徹底する
法律により、企業は労働者ごとに以下の事項を記載した「年次有給休暇管理台帳」を作成し、5年間(当面の間は3年間)保存することが義務付けられています。
記載事項 | 管理のポイント |
基準日 | 有給休暇を付与した年月日 |
付与日数 | その年に付与した日数 |
取得時季 | 実際に有給休暇を取得した年月日 |
取得日数 | 年間合計で何日取得したか(5日達成度) |
この台帳は、年度末に慌てて作成するものではなく、取得が発生するたびに記録し、労働者と会社で残日数を共有できるリアルタイムの管理が理想です。
勤怠管理システムやクラウドサービスを活用して、管理の負担を減らすことをお勧めします。
ステップ3:義務未達者への「個別フォロー」を確実に実施する
基準日から1年間の期間が迫った時点で、まだ5日取得できていない労働者に対しては、必ず以下の手続きを踏みましょう。 残りの有給日数を通知する。
取得希望日について意見を聴取する。(書面やデータで記録を残す)
聴取した意見を尊重した上で、会社が取得時季を文書で指定する。
この意見聴取と時季指定の記録こそが、「会社は義務を果たそうとした」という決定的な証拠になります。
この手続きを怠ると、取得義務違反の責任を問われます。
🔷まとめ
有給休暇の適正な管理は、罰則回避のためだけではありません。
従業員が計画的に休みを取り、心身ともにリフレッシュできる環境は、生産性の向上や優秀な人材の定着に不可欠です。
横山社会保険労務士事務所では、貴社の現状の有給管理体制を診断し、就業規則の改定から管理台帳の運用支援、従業員への周知方法まで、トータルでサポートいたします。
「なんとなく大丈夫」というリスクを排除し、「盤石なコンプライアンス体制」を構築することで、安心して事業経営に注力しませんか。
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