創業期にありがちな労務の「自己流運用」と、その潜むリスク

創業期は、事業の立ち上げに全力を注ぐため、労務管理が後回しになったり、「これで大丈夫だろう」と自己流で運用されがちです。
しかし、その「善意」や「慣習」に基づく運用が、事業が成長した後に思わぬ法的な問題やトラブルを引き起こす典型的な原因となります。
ここでは、創業期の経営者が陥りやすい労務の自己流運用と、それが将来的に招くリスク、そして今すぐ取るべき対応策について解説します。
🚨 善意が裏目に出る!自己流労務運用の典型的な事例とリスク
「社員のために」と行った行動が、法律や規則と食い違い、後に大きなリスクとなって跳ね返ってくる典型的な事例をご紹介します。
1.残業代の「固定額・定額払い」の曖昧な運用
自己流運用例: 「頑張っているから」と固定残業代(みなし残業代)を導入したが、計算方法や残業時間との関係が曖昧になっている。
潜在リスク:
・固定額に相当する時間を超える残業代が未払いと見なされ、遡及して支払いを命じられるリスクがあります。
・固定残業代の定義や金額が労働条件通知書に明確に記載されていない場合、固定額の全額が残業代として認められない可能性があります。
2.採用時の「口約束」による労働条件の決定
自己流運用例: 忙しいので「給与はこれくらいで」「来年には昇給する」といった重要な条件を、口頭やメールのみで合意して済ませている。
潜在リスク:
・入社後に「話が違う」と従業員との間で認識の相違が生じ、信頼関係の崩壊や早期離職、訴訟につながります。
・労働条件は書面(労働条件通知書)で明示することが法律で義務付けられています。
3.就業規則の未整備、またはネット雛形の形骸化
自己流運用例: 「社員が少ないから不要」として就業規則がない、あるいはインターネットの雛形をそのまま使っていて実態と合っていない。
潜在リスク:
・トラブル発生時、問題社員に対する懲戒処分(解雇など)を行っても、根拠となる規定がないため無効とされ、不当解雇のリスクを負うことになります。
・常時10人以上の企業は作成・届出が義務であり、怠ると労働基準監督署の是正勧告の対象となります。
4.有給休暇の原則「買い取り」を前提とした運用
自己流運用例: 「忙しいから休まず、まとめて買い取るよ」と経営者側から積極的に提案し、消化を促していない。
潜在リスク:
・労働基準法では原則として有給休暇の事前買い取りは禁止されています(退職時を除く)。
・従業員に休ませない慣習は、企業イメージの低下や法的なペナルティ、従業員の心身の不調につながります。
5.労働時間の「曖昧な自己申告」による管理
自己流運用例: タイムカードやシステムを使わず、「出退勤は自己申告で」と従業員任せになっている。
潜在リスク:
・使用者は労働時間を客観的な方法で記録する法律上の義務(労働時間把握義務)があります。
・トラブル時、客観的な記録がないと、従業員側の主張が通りやすくなり、多額の未払い賃金が発生する可能性があります。
✅ 今すぐ取るべき「リスク回避」のための対応策
これらのリスクを回避し、事業の健全な成長を促すためには、創業期から労務管理の「基礎体力」をしっかりつけることが重要です。
1.労働条件の「書面による明確化」を最優先にする
採用時には、給与、労働時間、残業代の計算方法、休憩時間などを必ず書面で交付し、同意を得ましょう。
特に固定残業代は、計算根拠を明確に記載することが必須です。
2.就業規則の作成・整備を急ぐ(10人未満でも強く推奨)
従業員が少ない段階でも、労使間のルールブックとして就業規則を作成し、周知することがトラブル予防の最大の防御策となります。
特に懲戒規定や服務規律は、企業秩序維持のために不可欠です。
3.労働時間の「客観的な記録」を導入する
タイムカードや勤怠管理システムなど、第三者から見て信頼できる記録に基づいて労働時間を管理しましょう。
労働時間の管理は、経営者の責任です。
4.専門家(社会保険労務士)のセカンドオピニオンを取り入れる
創業期の経営資源は有限です。
「知らなかった」では済まされない労務リスクを避けるため、顧問社会保険労務士などの専門家に相談し、自社の運用を早期にチェックしてもらいましょう。
🔷おわりに
創業期の情熱とスピードは素晴らしい資産ですが、労務管理においては「自己流」ではなく、「法令遵守」と「明確なルール」を最優先に据えることが、企業が長く存続し、優秀な人材を安心して雇用し続けるための基盤となります。
横山社会保険労務士事務所では、創業期の経営者様が安心して事業に集中できるよう、労務管理体制の構築をサポートしております。
労務に関するご不安やお困りごとがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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