社長の奥さんを手伝わせるとき、どこまでが“家族従業者”でどこから“従業員”なのか

創業したばかりの社長さんから、とてもよくいただく質問があります。

「うちの奥さんが事務をちょっと手伝ってくれてて…これって“従業員”なんですか?“家族の手伝い”なんですか?」

実はこのテーマ、ネット上には驚くほど情報が少ないのですが、現場ではほぼ確実にと言っていいほど発生します。

そして、判断を間違えると“想定外のリスク”がしっかり発生するところでもあります。

今回は、その境界線を「法律」と「実務」の両面から、創業者の目線でお伝えします。

🔶“家族従業者”と“従業員”は何が違うのか?

まず押さえておきたいのは、呼び方の問題ではなく、実態で決まるということ。

法律上は「奥さんだから特別扱い」というルールはありません。

● “家族従業者”として扱われるケース

いわゆる「家族従業者」は、主に個人事業主(青色申告)で用いられる概念です。

・給与ではなく“青色事業専従者”としての扱い
・労働時間管理や雇用保険の加入が不要
・いわば「家族が事業を手伝っている」という前提

つまり、奥さんが家族として無償または形式的な手伝いをするような場合はこちらに近くなります。

●“従業員”として扱われるケース

法人の場合はとてもシンプルで、
「労務の対価として給与を払っているかどうか」
「働き方が一般の従業員と同じかどうか」

で判断されます。

・給与を払っている
・業務内容・時間・指示系統が他の従業員と同じ
・出勤簿・給与明細・業務命令が存在する
この場合は、奥さんであっても“従業員”です。

ここが誤解されやすいのですが、「家族だから雇用契約にならない」ということはありません

🔶では、創業期で一番迷うグレーゾーンは?

おそらく、多くの社長さんが迷われるのはここです。

「給与を払っていないけど、毎日普通に働いている」
「月に数日だけ手伝ってもらっていて、交通費だけ手渡ししている」
「会計処理を任せているが、特別な取り決めはしていない」

このあたりは「家族だから曖昧でもいい」と思われがちですが、社会保険・労務リスクの観点では甘く見ない方が安心です。

🔶“従業員”扱いにすべきサインはこれ

次のどれかに該当してくると、奥さん=従業員扱いが妥当です。

●① 出社日・時間をある程度決めている

「毎週火・木の午前中だけ」などでも、明確な勤務体系があれば雇用契約に近づきます。

●② 仕事を指示している

社長が“夫として”ではなく“代表者として”業務指示をしている場合は、実務の実態として従業員です。

●③ 報酬の支払いがある

たとえ数万円でも、労務の対価としての性質があれば給与扱いになります。

●④ 他の従業員と同じような責任や役割がある

会計処理・請求書作成・顧客対応など、業務の性質が一般の従業員と変わらなければ従業員扱いです。

🔶逆に“家族の手伝い”で済むのはどのレベル?

・繁忙時に数時間だけ、書類をホチキス留めしてもらう
・宅配便の受け取りをたまたましてくれる
・お茶出しを一時的に頼む

この程度であれば、法律的にも“業務の対価”と評価されにくく、家族の自然な協力の範囲です。

🔶創業者が必ず知っておきたいリスク

境界線を曖昧にすると、次のような問題が表面化します。

●社会保険の加入漏れ

「奥さんは家族だから加入しない」は通用しません。
実態が従業員であれば加入義務が発生します。

●労働トラブルで“従業員扱い”を主張される

家族関係が悪化したとき、
「私は従業員として働いていた」
「未払い残業代を請求する」
というケース、実は実務では多くあります。

●税務署からの指摘

給与の性質が曖昧だと、必要経費として否認される可能性があります。

創業期ほど、“家族だから適当に”が一番リスクになるところです。

🔶結論:線引きに迷ったら、“第三者が見たらどう判断するか”で考える

奥さんという立場は一度脇に置いて、「この働き方を他の人がしていたら従業員に見えるか?」

これが最もシンプルな判断基準になります。

そして、迷うラインになってきたら──
勤務日数・業務範囲・給与の有無を“ルールとして明確化”することが必須です。

就業規則がある会社なら、家族従業者をどう扱うかをひと言入れておくとさらに安心です。

🔷最後に──創業者にとって“家族の支え”は本当に大きいからこそ

創業期、奥さんが手伝ってくれることは本当にありがたいことです。

人を雇う余裕がない時期、信頼できる存在がそばにいるのは、経営者にとって大きな支えです。

ただ、家族だからこそ
「今はいいか」
「うちは大丈夫だろう」
と、立場や扱いが曖昧なまま進んでしまいがちです。

でも実務の世界では、家族かどうかよりも“働き方の実態”が判断基準になります。

第三者が見て「従業員に見える働き方」になってきたら、一度きちんと整理しておく方が、後々安心です。

線引きは冷たさではありません。
長く、無理なく続けるための準備です。

「うちはどこに線を引くのが一番自然なんだろう?」
そう感じたときは、ひとりで悩まず、ぜひ一度、横山社会保険労務士事務所にご相談ください。

家族と、会社と、どちらも大切にしながら進める形を、一緒に整理していきましょう。

ご相談は下記の【お問い合わせフォーム】からご連絡ください。

お問い合わせフォームはこちら