経験者を採用したときに起きやすい、少し言葉にしづらい違和感


創業期に経験者を採用すると、頭では「助かるはずだ」と分かっているのに、気持ちのどこかが落ち着かなくなることがあります。

能力もあるし、言っていることも理解できる。

それなのに、打ち合わせや日々のやり取りを重ねるほど、判断にブレーキがかかるような感覚が出てきます。

「自分が細かすぎるのかな」
「もう少し相手に任せた方がいいのかな」

そんなふうに考え始めたとき、多くの場合、何かがズレ始めています。

それは大きな衝突ではなく、誰かを責める話でもありません。

あとから振り返ってようやく言葉にできるような、静かな違和感です。

この背景にあるのが、経験者採用でよく起きる「前職ルールを持ち込まれる問題」です。

🔶会話の中で、少しずつ増えていく前職基準

経験者の方との会話で、こんな言葉が出てくることがあります。

  • 前の会社では、このやり方でした
  • 普通は、こういう運用はしません
  • それは少しリスクが高いと思います

どれも、もっともらしく聞こえますし、実際に間違っていないことも多いです。

だからこそ、社長の側では、はっきり否定もできず、判断を自分の中にしまい込むようになります。

「この人の言う通りにした方がいいのだろうか」
「自分の感覚は甘いのではないか」

こうした迷いは、創業者として自然なものです。

🔶人が悪いわけではなく、基準が見えていないだけ

この問題は、誰かの性格や姿勢の問題として語られがちですが、実際にはそうではありません。

創業期の会社では、ルールや判断基準がまだ頭の中にある状態で、文章や仕組みとして外に出ていないことが多くあります。

一方、経験者は、前職で身につけた明確な基準の中で仕事をしてきています。

この二つが重なれば、違和感が生まれるのは自然なことです。

ぶつかっているのは人ではなく、基準と基準です。

🔶そのままにしておくと、起こりやすい変化

大きなトラブルになることは少ないものの、放置すると、会社の足元にじわじわ影響が出ます。

社長が判断を下すたびに迷いが増えたり、人によってやり方が微妙に変わったりするようになります。

結果として、「うちの会社ではどうするのか」を説明できる人がいなくなってしまう。

創業期にとって、これは意外と重たい状態です。

🔶感情で止めず、仕組みで整理するという考え方

この段階で、「前の会社の話はしないでほしい」と伝えたくなることもあるかもしれません。

ただ、それは社長にとっても負担が大きいやり方です。

必要なのは、会社としての基準を静かに示すことです。

🔶制度面で意識しておきたいポイント

まず大切なのは、「一般的にはどうか」よりも、「うちの会社ではどうするか」を言葉にすることです。

労働時間の考え方、申請や報告の流れ、最終的な判断の置きどころなど、今の規模に合った形で十分です。

また、経験者の意見は貴重ですが、提案と決定は同じではありません。

意見を聞くことと、会社として決めることを分けて考えるだけで、社長の負担はかなり軽くなります。

就業規則や職務分掌は、これを声高に主張するためのものではなく、役割の境界線を自然に共有するための道具です。

さらに、入社時点で前提を共有しておくことも効果があります。

  • 経験はありがたいこと
  • ただし、まずは会社の基準を土台にする

この二点を伝えておくだけで、無用なすれ違いは起きにくくなります。

🔶「自分の判断で進めていいのか」という不安へ

創業期の社長からは、「自分の決め方が正しいのか分からない」という声をよく聞きます。

ただ、この段階で大切なのは、完璧な正解を出すことではありません。

事業や組織が成長すれば、ルールは必ず見直されます。

だからこそ、今の状況に合った基準を持っていること自体が重要です。

何も決まっていない状態よりも、たとえ未完成でも、会社としての軸がある方が組織は安定します。

🔷社労士としてお伝えしたいこと

経験者採用にまつわる違和感は、多くの場合、人の問題ではなく制度の整理で和らぎます。

就業規則や社内ルールは、社員を管理するためだけのものではありません。

社長が一人で抱え込まずに判断するための拠り所でもあります。

経験者の力を活かすためにも、まずは会社の基準を整える。

その積み重ねが、創業期を無理なく進めるための土台になります。

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