【2026年4月施行】労働安全衛生法改正~高年齢労働者の安全確保が「企業の努力義務」になります~

2026年4月から、労働安全衛生法の改正により、高年齢労働者(シニア層)の労災防止に向けた取り組みが、事業者の努力義務として明確に位置づけられます。
現場を長年支えてきたベテラン社員は、企業にとって欠かせない存在です。
一方で、年齢を重ねることで生じる身体機能の変化は、経験や注意力だけではカバーしきれない場面も増えてきます。
今回の法改正は、「個人の注意に任せる安全管理」から「企業の仕組みとして支える安全管理」へ考え方を一段引き上げるものだと言えるでしょう。
🔷なぜ今、高年齢労働者の安全対策が求められるのか
厚生労働省の統計では、労働災害による死傷者のうち、約3割が60歳以上で占めています。
特に問題視されているのが、
- 転倒
- 墜落・転落
- 重量物の取り扱い
といった事故が、若年層に比べて重症化しやすい点です。
一度の事故が、
・長期休業
・そのまま離職
・会社に対する損害賠償請求
へと発展するケースも、決して珍しくありません。
こうした背景から、「加齢による変化を前提とした職場づくり」を企業側に求める流れが、今回の法改正につながっています。
🔷法改正で求められる基本的な考え方
今回の改正では、特定の対策を一律に義務付けるというよりも、
- 高年齢労働者の特性を踏まえ
- 職場のリスクを把握し
- 事業者が主体的に必要な措置を講じる
という姿勢が重視されています。
実務的に整理すると、対応の方向性は次の3つに集約されます。
① 環境面の配慮(物理的リスクの低減)
まず重要なのは、転倒・つまずき・滑りといった事故を起こしにくい職場環境です。
- 通路・階段・作業場所の十分な照度の確保
- 段差の解消、または段差を視認しやすくする工夫
- 滑りやすい床への対策、防滑靴の活用
- 通路に物を置かないなど、整理整頓の徹底
若い頃には気にならなかった2〜3cmの段差が、大きな事故につながることもあります。
「危険をなくす」「見えやすくする」という視点が欠かせません。
② 作業管理の見直し(身体負荷の軽減)
次に、作業そのものが身体に与える負担への配慮です。
- 重量物を一人で扱わせないルールづくり
- 台車や補助器具、パワーアシスト機器の活用
- 無理な姿勢が続かない作業設計
- 立ち仕事・中腰作業への休憩配慮
- 深夜業や連続勤務を避けるシフト設計
「できる人だから任せる」ではなく、誰がやっても安全な作業かどうかが判断基準になります。
③ 健康・体力の把握とコミュニケーション
もう一つ重要なのが、本人の自覚と実際の状態のズレを放置しないことです。
- バランス感覚や柔軟性などの体力把握
- 健康診断結果を踏まえた就業上の配慮
- 産業医・保健師と連携した配置判断
- 体調や不安を相談できる社内の雰囲気づくり
「まだ大丈夫」「言い出しにくい」という気持ちが、事故の遠因になることもあります。
仕組みと同時に、相談しやすい空気づくりも欠かせません。
🔷社労士としてお伝えしたいこと
今回の改正は「努力義務」とされていますが、何もしなくてよい、という意味ではありません。
万が一労災が発生した場合、
・法改正を踏まえた検討をしていたか
・必要な配慮を行っていたか
は、安全配慮義務を果たしていたかどうかの判断材料になります。
一方で、私はこの改正をリスク対応だけで終わらせるのはもったいないとも感じています。
高年齢労働者に配慮した職場は、
- 若手社員
- 体調に不安を抱える社員
- 一時的にパフォーマンスが落ちている社員
にとっても、働きやすい環境になるからです。
🔷まとめ
2026年4月の法改正に向けて、特別な設備投資や大がかりな制度変更を、最初から行う必要はありません。
まずは、
- 現場を実際に見てみる
- ベテラン社員の動線や作業の様子を確認する
- 「ここは転びやすそうだ」「ここは無理が出やすいかもしれない」と感じるポイントを洗い出す
こうした日常の延長線上の確認が、十分な第一歩になります。
高年齢労働者の安全確保は、単なる事故防止策ではありません。
これまで「経験」や「注意」に任せてきた部分を、企業として整理し、仕組みに落とし込む作業でもあります。
今回の法改正は、「問題が起きてから考える」のではなく、「問題が起きにくい職場に整えていく」ためのタイミングです。
自社の状況に照らして、どこまで対応すべきか、何から手をつけるべきか。
迷われたときは、制度と実務の両面から整理することが重要になります。
高年齢労働者が無理なく、長く、安全に働き続けられる職場づくりは、結果として、すべての社員にとって働きやすい環境につながります。
制度の考え方や、対応の進め方についてお悩みの際は、どうぞ横山社会保険労務士事務所へお気軽にご相談ください。
貴社の実情に合った形で、一緒に整理していきましょう。
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